ああ、楽しみだなぁ、君を消すのが。
ああ、悲しいなぁ、兄の落胆の顔を見るのが。
でも、素敵だなぁ、君のいない世界は。
きっと、きっと。
とても素敵なのだろう。

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「我愛羅、何も言わずに木の葉に来たようだが、大丈夫なのか?」
夜中、バキは我愛羅の付き添いとして木の葉の里へ赴いていた。
正確には、四日前の早朝から砂隠れを出て、火の国木の葉の里へは昼ごろには着いていたのだが、我愛羅は何か意図があるらしくて高い木に登って日が暮れるのを待っていた。
だが、バキが心配しているのはそんなことではなくて、里に何も言わずに木の葉に赴いてしまったことだった。
それだけではなく、木の葉側にも何も言っていない。いくら同盟国とはいえ、流石にコレはヤバイとバキは冷や汗を流していた。
「ふん、心配することはない、カンクロウにはちゃんと言ってある。
その証拠に、ちゃんとカンクロウは風影代理を務めているじゃないか。ぶつくさ言いながら椅子に張り付いて。
それに、綱手にも、密書を送ってある」
と、我愛羅たちが話している木の、隣の木に、何かが降り立った。
バキはさっと我愛羅を庇いクナイを構えたが、そのバキを押しのけた我愛羅は影に向かって両手を広げた。
「綱手・・・・」
つい最近綱手の身長を追い越した我愛羅は、綱手を包み込んで両腕にぎゅっと力を込めた。
綱手も我愛羅の背中に手を回して、形の良い顎に口付けた。
「我愛羅、こんな夜になるまで待たせて・・・・。
おや、お付がいるのかぃ?じゃぁ、今回は公の用事なんだね?」
綱手は少し肩を落として我愛羅から離れた。
驚いたのはバキである。
我愛羅が綱手にほのかな想いを寄せていたのは知っていたが、あまりに歳が離れすぎているので此処まで行くとは思ってもいなかった。
むしろ綱手の方も我愛羅の想いを受け止めているようである。
すっかり毒気を抜かれてしまったバキはただ口を大きく開け放すしかなかったが、はっと我に返って綱手に敬礼をした。
「先ほどは、獲物を向けてしまい失礼いたしましたっ」
「いいよ、影を守るのはお付きの役目だ。
我愛羅、いいお付を持ったね」
綱手に褒めてもらい、苦笑いを浮かべて少し頬を染めるバキに、微笑みながら綱手の手を握る我愛羅。
「当たり前だ、バキは俺の父親のようなものだ」
「我愛羅・・・・」
思わずバキは涙ぐんだ。もちろん、バキも我愛羅を含める四代目風影の子供達を自分の子どものように扱ってきたからである。
嬉しかったのだ。
「さて、では綱手。悪いが俺達を屋敷へと連れて行ってもらえないか」
「いいとも、2人ともおもてなしさせてもらうよ」
さて、火影の屋敷である。
バキと我愛羅は小さなテーブルを挟んで左側、綱手は右側に座った。
お茶と茶菓子のどらやきを出され、その一つを手に取ったバキは一口含んで我愛羅に目配せして頷く。
それを見て、我愛羅もどらやきに手を伸ばした。
「そんなに警戒しなくたっていいじゃないかぃ」
苦笑いの綱手に対して、バキは申し訳なさそうに口を開く。
「すみません、ですが万が一のこともありますので・・・・」
「うまいぞ、これ・・・・」
大人2人を差し置いて我愛羅は口を動かしている。
いくら風影とはいっても、まだ17歳の少年なんだと改めて思い知らされた綱手とバキは、ふっと笑って我愛羅を眺めた。
「ふぅ」
頬についたあんこの一粒を指で拭い、口に含むと我愛羅はきっと表情を引き締めた。
「本題に入る」
いきなり風影へと表情を変貌させた我愛羅をバキは誇らしく、綱手は苦々しく思い、視線を向けた。
「密書にも書いたと思うが、実はカンクロウの傀儡管理局から生きたカラクリ人形が発見された」
「ああ」
「それが、自分の意思を持ち、あのサソリを慕っていると来た。
だが、見つかるとまずいと俺とカンクロウ2人でソイツを取り押さえた」
話しているうちに我愛羅の手は、羽織っている服のすそをきつく握り締めていった。
「あいつは・・・・あいつは、カンクロウを狙っている。
それが、普通の人間なら、俺だって何も反対はしないさ、テマリのように。
だが、アイツは人形だ!あんな、今はもういない人間に強い想いを馳せている人形に、カンクロウを渡したくない。
いや、コレは俺ただ一人の見方だ。
だが、風影としての見方はこうだ。
今はカンクロウが取り押さえてはいるが、アイツの強さはずば抜けている、危険だ。
もし、何かあってカンクロウの手をすり抜けて里に繰り出すようなことがあってみろ。
それこそ大惨事だ。そんなこと、あってはならない。
絶対にだ」
「まるでガキの言い訳だね」
珍しく感情的な我愛羅の言い分は、とても普段の彼からは想像出来る物ではなく、少なからずと綱手を落胆させた。
だが、この小さな恋人の願いを叶えたい思いもある。
歳を取り、誰も相手にしてくれなくなった自分を好いてくれるといった我愛羅の願いを、綱手は叶えたかった。
うっと呻いて更に服を握る手の力を強める恋人の頬に、綱手は身を乗り出して触れた。
「わかったよ、どうして欲しいんだぃ?」
隣でハラハラと2人の様子を見守っていたバキは、ほっと胸を撫で下ろした。
「ありがとう・・・・」
そっと、潤んでいた瞳を伏せて、涙を弾き飛ばした我愛羅は一言礼を言って力強い瞳で綱手の綺麗な瞳を見つめた。
「日向の、従妹達を貸して欲しい」
ん、いいよ、と微笑んだ綱手の豊かな胸に我愛羅は顔を埋め、バキは赤面して部屋を出た。
その後、生きた傀儡人形の名前を聞いた綱手が、一瞬恐怖で震えたのを、我愛羅は気付きもしなかった。
何しろ彼は、心の中でどす黒く微笑んでいたのだ。
我愛羅は、綱手も好きだったが、もう一人、好いている娘がいた。
そして、その好いている娘に、自分とは別に想いを寄せている男が居ることも知っていた。
どうせなら、苦しめてやろう。
生き傀儡の女も、聡明で綺麗で、滑らかな長髪を持っている男のことも、我愛羅は大嫌いだったから。
ただ、苦しめてやろうと、ほくそえんでいたから。
綱手の震えに、若い彼は気付かなかったのだ。



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ああ、楽しみだなぁ。
あの子を奪うのが。
ああ、楽しみだなぁ。
アイツの歯を食いしばる顔を見るのが。
ああ、楽しみだなぁ。
アイツの美しい顔が、憎しみで歪むのを見る日が。
とっても、楽しみだ。